どんな地質の土地でも住まいは建ちます。
違いは、工事費が「高いか、妥当か、安いか」です。
基礎工事の項でも触れましたが、その建物にとって安全な基礎とは地質にかなった基礎にほかなりません。
最近、水戸地裁から依頼された鑑定書を書き終えましました。
この鑑定こそ本項で指摘しておきたい見本のような内容でしました。
少し長くなりますが紹介しましょう。
当該の物件は建築条件付き土地で、土地は売買契約で購入、上家は請負契約を結んでいます。
ところが、入居して1年も経たないうちに建物の西北隅の部分が沈下しはじめたのです。
沈下は次第に進み、建物にも大きな影響が現れましました。
しかし、バブルが崩壊してからというもの、業者に誠意のある態度が見られなくなって……。
堪忍袋の緒が切れた発注者は工事業者を訴え、そして数年、いくつかの応酬の末に私に鑑定の依頼が舞い込んだというわけです。
下調査の結果、建築確認通知書に書かれている設計者は2級建築士、工事監理も同一人でしたが、地質調査の形跡がありません。
そして、建物・敷地の沈下の原因は、敷地地盤にふさわしくない基礎が施工されていることと判明しましました。
ところが法廷には一切の設計図書の提出がなく、これが「建築確認の特例(有)」の物件だとそこでわかったのです。
こちらの地質調査で、その敷地の地質は産業廃棄物で埋め立てたもので、東側半分には地耐力があるものの、北側半分の地耐力は3トンを下回る軟弱地盤ということがわかりましました。
必要な補修費を算定すると、地質にふさわしい基礎(杭基礎)につくり替える費用および上家の補修費用を加算して、おおむね請負契約の代金に近い数喝値になってしまいましました。
さて、ここで問題にしたいのは、地質調査をして資料を設計者に提供するのは発注者なのか、発注者が黙っていても調査の上で地質にふさわしい基礎を設計する義務が建築士にあるのかということです。
結論を言えば、地質調査は建築士の注意義務の範囲内にあると判定できます。
しかし、代金をすべて支払い、年数を経てからこんな事態になるケースもあるのです。
「業者が倒産していたら」などと思うとゾッとするではありませんか。
地質調査を行い、地質にかなった基礎がつくられているかどうかは極めて重要なことなので、念には念を入れてチェックしましょう。