阪神・淡路大震災の震源地周辺で、一人の大工さんが生涯をかけて170戸の住宅を建てましました。
そして今回の地震では、その大工さん(天王寺谷棟梁)が建てた住宅からは一人の負傷者も出ませんでしたし、完全に倒壊した住宅は1棟もありませんでしました。
隣りの建物が寄りかかってきて取り壊した住宅が1戸、大きく沈下したビルが1棟、建物が増築部分で大きく変形した住宅が1棟と、合計3棟が大きな被害を受け、そのうち2戸の住宅だけが建て替えをしましました。
6000名を超える死者を出し、1万6000戸を超える建物が全壊している地震で、どうしてその大工さんが普請した住宅は壊れなかったのか~壊れない建物には、壊れない秘訣があったのです。
棟梁の建てた建物で現存するものを詳細に調べてわかったことは、1937年(昭和12年)に独立して以来、今日までに建てた住宅は、何と現行の建築基準法を地で行くようにつくられていたのです。
現行の建築基準法が制定されたのは1975年ですから、それよりはるか以前から、大工の良識をもって住まいづくりに徹してきたことがわかりました棟梁の建てた建物は決して工事単価の高いものばかりではなく、多くは庶民の住宅です。
良識をもって建てれば、おのずと現行の建築基準法に近いものになり、そうすればちっとやそっとの地震などにはビクともしない住宅ができあがるというわけです。
建築基準法があっても、同施行令があっても、それをないがしろにする大工たちが多い中で、真面目に住まいづくりをしている大工さんもいるのです。
別に名工である必要はないし、高価な建物である必要もありません。
建物の安全性と工事費の多寡(多い少ない)は関係ありません。
何とかして、そうした真面目に建築に従事している大工たちとの出会いをもってほしいものです。
一方で、工務店を経営する建築の専門家でない会社経営者が、「建築基準法に違反していることが、必ずしも瑕疵ではない」と居直ったことがあります。
これには驚きましたが、そうした住宅会社も少なからずあることを心に留めておきたいものです。
最小限の技術基準を定めた建築基準法に違反している建物は、重大な瑕疵をもった住宅なのです。